はじめに:シヴァ神ってどんな存在?
シヴァの不思議な魅力とパワー
宇宙のリズムに合わせて踊るダンサー、古いものを壊して新しいものを生み出す存在、そして私たちがまだ知らない力の源。シヴァ神には、そんなたくさんの顔があります。一見バラバラに見えるこれらの要素が、実は一つにまとまっているのがシヴァの面白いところです。ヒンドゥー教の神さまたちの中でも、シヴァはとくにミステリアスで個性的な神さまと言われています。

シヴァは、命と死、破壊と再生、混沌と秩序といった、まったく正反対のものを一つにまとめる存在として、多くの人に信仰されてきました。だからこそ、シヴァは人間の理解を超えた「神秘の世界への入り口」でもあり、日常と神聖な世界をつなぐかけ橋のような存在でもあるのです。
シヴァはどんな神さま?
シヴァは、ヒンドゥー教の三大神「トリムルティ」の一人で、よく「破壊の神」と呼ばれます。でも「破壊」と聞くと、ちょっと怖いイメージを持ってしまいそうですよね。でも実は、シヴァの破壊は「終わり」ではなく「はじまり」のためのもの。古いものを壊して、新しいものが生まれるための大切なプロセスなんです。
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また、シヴァ派と呼ばれるグループでは、シヴァは宇宙のすべてを動かす最高の神さまと考えられています。宇宙の創造、維持、破壊、隠すこと、そして解放。この5つの働きをすべて担っているとされていて、世界のすべてはシヴァのエネルギーによって動いている、そんなふうに信じられているんですよ。
だからこそ、シヴァはとても奥深くて神秘的な力を持つ神さまとして、多くの人に尊敬され、愛されているんです。
シヴァ神のはじまりとその役割
昔のシヴァ ― ヴェーダ時代
シヴァ神のルーツをたどっていくと、古代インドの聖なる書物「ヴェーダ」にその姿がちらっと出てきます。ただ、その頃は「シヴァ」という名前ではなく、「ルドラ」という別の名前で知られていて、嵐や狩りをつかさどるちょっと恐ろしい神さまだったんです。ルドラは強い力を持っていて、人々にとっては少し怖い存在でもありました。
でも時代が進むにつれて、ルドラは少しずつ変わっていきます。そしてやがて、「シヴァ」と呼ばれるようになり、その意味も「優しさ」や「幸運」など、穏やかで思いやりのあるイメージに変わっていきました。この変化は、シヴァが恐れられるだけの存在から、もっと広く深く、親しまれる神さまへと進化していったことを表しているんですね。
壊して、そして生み出す神
「破壊の神」として有名なシヴァですが、彼の「破壊」はただ終わらせるためのものじゃありません。むしろ、古いものを一度終わらせて、そこから新しい命や可能性が生まれるためのプロセスなんです。シヴァが踊る「宇宙のダンス」は、終わりと始まりを同時に表しているんですよ。
さらにシヴァは、「ヨガの王様」や「偉大な修行者」とも呼ばれています。つまり、外の世界から少し離れて、静かに自分と向き合いながら本当の自由を見つけていく、そんなスピリチュアルな道を示してくれる存在でもあるんです。彼は、再び生まれ変わることや、目覚めることの象徴でもあります。
宇宙を支える三大神のひとり
ヒンドゥー教では、宇宙のバランスを保つために3人の大事な神さまがいるとされています。それが「創造の神ブラフマ」「守る神ヴィシュヌ」「そして破壊と再生の神シヴァ」。この3柱の神さまたちは「トリムルティ(三位一体)」と呼ばれています。
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その中でシヴァは、古くなったものを壊して、新しい流れを生み出す役目を持っています。つまり、宇宙がずっと動き続けていくために欠かせない、変化と再生のシンボルなんですね。
シヴァ派とシヴァ神について
シヴァ派ってどんな宗派?
シヴァ派は、ヒンドゥー教の中でも大きな流れのひとつで、シヴァ神を「いちばん大切な神さま」として信仰しています。その起こりははっきりとは分かっていませんが、かなり昔、なんと紀元前2000年ごろのインダス文明にまでさかのぼるかもしれないと言われています。シヴァ派の人たちは、命のはじまりも終わりも、すべてはシヴァ神からきていると考えているんです。
この宗派の教えにはいろんな考え方や修行の方法があって、ひとつに決まっているわけではありません。その中のいくつかでは、「シヴァと自分の魂(アートマン)は本当はひとつだ」と気づくことで、すべての苦しみから自由になれると教えています。祈ったり、瞑想したり、ヨガをしたり、儀式をしたりして、自分自身の「解放=ほんとうの自由」を目指しているんですね。
シヴァはどんなふうに信じられているの?
シヴァ派の中心にある考えは、「シヴァは宇宙そのものの働きをすべてになっている存在」だということ。つまり、世界が生まれること、続いていくこと、終わってまた生まれ変わること、そして隠された真実に気づくことや、すべてから解放されることまで、全部がシヴァの働きだと考えられているんです。
この世界にあるあらゆる出来事やエネルギーも、シヴァのあらわれだと捉えられています。だからシヴァ派の人たちは、「自分の魂とシヴァのエネルギーがひとつになること=究極のゴール」として、日々の修行を続けているんです。
そしてもうひとつ、シヴァの「踊り」もとっても大切な象徴になっています。とくに「タンダヴ」や「アナンダ・タンダヴ(喜びの踊り)」という踊りは、宇宙が生まれ、変化し、また新たに生まれ変わっていく――そんな永遠のリズムを表していると考えられています。
シヴァ神のいろんな姿(化身)
ナタラージャ:宇宙を踊るシヴァ
シヴァ神の中でも、特に印象的な姿といえば「ナタラージャ」でしょう。これは「踊りの王様」という意味で、シヴァが「宇宙のダンス」を踊っている姿なんです。このダンスは「タンダヴ」と呼ばれていて、ただの踊りではなく、宇宙が生まれて、壊れて、また生まれ変わる――そんな永遠のサイクルを表しているんですよ。

ナタラージャの像では、シヴァは片足で地面を踏み、もう片方の足を軽やかに上げて、火の輪の中で踊っています。手に持った小さな太鼓は「宇宙のはじまり」を、炎は「終わり=破壊」を意味していて、もうひとつの手は「怖がらなくていいよ」と安心させてくれるポーズをしています。とってもダイナミックで、どこか優しさも感じられる姿です。
ラドラ:シヴァの怒れる一面
シヴァには、もっと激しい一面もあります。それが「ラドラ」という姿です。ラドラは「怒りの神」とも呼ばれていて、嵐のような力や、どうしようもない破壊のエネルギーを象徴しています。すごく昔、ヴェーダと呼ばれる古代の文献にも登場しているんですよ。
ラドラは、シヴァそのものとも、シヴァの前身(昔の姿)とも言われていますが、どちらにしても共通しているのは「破壊と再生の力」を持っているという点。怒りという強い感情の中にも、何かを変えるパワーがあると考えられているんですね。
アルダナリーシュヴァラ:男と女がひとつに
そしてもうひとつ、とてもユニークなシヴァの姿が「アルダナリーシュヴァラ」です。これは「半分男、半分女の神さま」という意味で、シヴァとその妻・パールヴァティが一つの体になっている姿なんです。

この姿は、男らしさと女らしさ、行動と優しさ、強さと包容力、そういった両方の性質がひとつにまとまっているという深いメッセージを持っています。それだけでなく、「心と体」や「宇宙と自分」といったふたつのものが一体となる、調和のシンボルでもあるんですよ。
シヴァ神のイメージとシンボル
怖い?美しい?そのどちらも持つシヴァ
シヴァ神の姿って、実はとても多面的。見る角度によってまったく違って見えるんです。あるときは、美しく踊るダンサーだったり、深い瞑想にふけるヨギ(修行者)だったり、愛情深い夫として描かれることもあります。でも、またあるときは、すべてを壊してしまうような恐ろしい力を持つ「破壊の神」として登場することも。
たとえば、宇宙のリズムを踊りで表す「ナタラージャ」のシヴァは、見た目は美しくても、その踊りは宇宙の終わりと始まりを表していて、ちょっとぞくっとするような側面もあるんです。そして、「ラドラ」という姿では、怒りと破壊の力を全身で表現しつつも、それが新しい世界を生み出すきっかけにもなっているんですね。
シヴァを表すいろんなシンボル
シヴァにはたくさんの象徴(シンボル)があります。それぞれに意味が込められていて、彼の持つパワーや考え方を伝えてくれます。

まず有名なのが三叉の槍「トリシューラ」。これは「つくる」「守る」「こわす」という、宇宙の三つの大きな働きを象徴しています。
そして、シヴァの髪から流れ出すガンジス川。これは、命を育む水のように、シヴァが再生や命の恵みを与える存在であることを表しています。
首に巻かれた蛇も印象的ですよね。蛇は「死」と「生まれ変わり(再生)」をあらわしていて、変化し続ける世界のサイクルを示しています。
さらに、シヴァの目にも意味があります。左目は太陽、右目は月を表し、それぞれ昼と夜、男と女、知識と無知といった“対になるもの”を意味しています。そしておでこの真ん中にある第三の目は「真理を見抜く目」。ふつうの目では見えない、本当のことを見通す力があるとされています。
それから、シヴァはよく灰色の肌で描かれますが、これも意味があります。火葬場に住み、死者の灰を体に塗っているとされるシヴァは、「死もまた自然な流れの一部なんだよ」と私たちに伝えてくれているんです。生きること、死ぬこと、そのすべてがつながっているという考えがここに込められているんですね。
シヴァ神と日本の韋駄天(いだてん)
韋駄天って、実はシヴァとつながってる?
日本で知られている韋駄天(いだてん)は、実は遠いインドの神さま、シヴァと関係があるんです。特に、シヴァが踊る姿「ナタラージャ(踊る王)」の影響があると考えられています。

その背景には、仏教がインドから中国、そして日本へと伝わってくる長い旅があります。この間に、シヴァは仏教の中で別の姿に変わっていき、日本では韋駄天として信仰されるようになったんです。
日本の仏教美術では、韋駄天が躍動感のあるポーズで描かれることがよくありますが、これはナタラージャの踊りと似ていて、ふたりの神さまの関係を感じさせます。また、韋駄天は仏教を守る神としても知られていて、修験道(山での修行を中心とした日本独特の宗教)でも大切にされています。
宗教と文化が出会う場所

シヴァと韋駄天の関係から見えてくるのは、違う文化や宗教が出会い、影響し合って生まれる新しいカタチの信仰です。もともとは別々の神さまでも、似たようなテーマや象徴を持っていると、自然と結びついて新しい意味を持つようになるんですね。
たとえば、「踊る姿」や「守りの力」、「スピリチュアルなエネルギー」など、共通点があることで、インドの神さまが日本でも親しまれる存在になっていったわけです。
こうしたつながりを知ると、世界の宗教や神話が、思っている以上に広く、そして深くつながっていることがわかります。シヴァと韋駄天の比較は、「人はどうやって神さまを理解し、祈ってきたのか?」というテーマを考える、面白いヒントをくれる存在なんです。
シヴァのスピリチュアルな側面
―沈黙、瞑想、そして“自分自身”との出会い―
シヴァ神といえば、「破壊の神」「踊る神」として知られていますが、実はその奥には、とても静かで深いスピリチュアルな側面が広がっています。
それは、「外の世界を変える」力というより、「内なる自分を見つめ、解き放つ」力なのです。
シヴァは“瞑想の王”
ヒンドゥー教の伝統では、シヴァは「マハーヨーギ(偉大なる修行者)」として崇められています。
彼は物質的な欲を捨て、カイラス山の頂でひとり静かに座り、宇宙とつながる深い瞑想に入っているとされます。

この姿は、「本当の自分とは何か」「世界の本質とは何か」を探し求める、精神の探究者の理想像でもあります。
第三の目は“真理を見抜く目”
シヴァの額には、よく知られる「第三の目」があります。
これは普通の目では見えないもの――つまり、「真理」「本質」「無明の奥にあるもの」を見通す目です。
スピリチュアルな修行者にとって、第三の目は「目覚めた意識」の象徴であり、
迷いや執着から自由になった境地のことを表しています。
シヴァの沈黙が意味するもの
シヴァは多くを語らず、ただ“在る”存在。
この沈黙には、「答えは外にではなく、内なる沈黙の中にある」というメッセージが込められています。
瞑想を通じてその沈黙に触れると、思考や感情を超えた「空(くう)」のような広がりに気づくかもしれません。
それこそが、シヴァ的な悟りの感覚なのです。
シヴァのスピリチュアルな教えとは?
シヴァの姿や伝説から伝わってくるのは、次のようなスピリチュアルな学びです。
- すべての執着から自由になること
- 変化や破壊を恐れず受け入れること
- 静けさの中に本当の自分を見つけること
- 行動と沈黙のバランスを知ること
- “自己”という幻想を越えて、すべてと一体であると知ること
スピリチュアルな観点からみたシヴァ
- シヴァは“内なる自由”を象徴するスピリチュアルな存在
- 瞑想、沈黙、第三の目は、「気づき」と「解放」の象徴
- 私たちもシヴァのように、“内側の宇宙”と向き合うことができる
シヴァ神は、ただ世界を動かす神ではありません。
彼は私たち一人ひとりの中にある「本当の自分を思い出す道しるべ」でもあるのです。
もし心がざわざわした時、もし自分を見失いそうになった時、シヴァのように静かに目を閉じ、心の中をじっと見つめてみてください。そこには言葉にできないほど深くて広い、「ほんとうのあなた」がいるかもしれません。
おわりに:シヴァから学ぶこと ― 人生と智慧のヒント
今の時代とシヴァ神
今のヒンドゥー教の中でも、シヴァは「三大神」のひとりとして、変わらず大きな存在感を持っています。シヴァ派の人たちは、日々の暮らしの中でシヴァを信じ、守ってくれていると感じながら生きています。
また、シヴァが踊る「ナタラージャ」の姿は、今でもヒンドゥー教のアートやお寺の装飾などにたくさん登場していて、その美しさと意味の深さから多くの人を魅了し続けています。
さらに、シヴァの教えやイメージはインドだけでなく、世界中に広がっています。ヨガや瞑想をしている人たちの中には、シヴァを「ヨガの神さま」として尊敬し、内面の静けさや気づきを求める際にシヴァに思いを馳せる人も少なくありません。
シヴァは、どんな人にも通じる存在
シヴァの教えや象徴は、ヒンドゥー教の信仰にとどまらず、「生きること」「死ぬこと」「変わること」など、人間誰もが向き合うテーマに深く関わっています。
だからこそ、シヴァは宗教の枠を超えて、「人って何のために生きるんだろう?」「この世界ってどうなってるんだろう?」といった、大きな問いにヒントをくれる存在でもあるんです。
シヴァから学べることはたくさんあります。たとえば、困難を受け入れること。変化を恐れずに進むこと。そして、自分自身の中にある真実を見つめること。シヴァの教えは、私たちが人生の中で迷ったとき、立ち止まったとき、そっと寄り添ってくれるような智慧を与えてくれます。